業界のタブーに挑み続ける異彩を放つ蔵人・薄井一樹氏
薄井氏は酒造りをはじめた当時、先代から「こんな酒は売れるはずない」と言われたという。
伝統的製法やドメーヌ米などのこわだりの日本酒を販売している株式会社せんきん。
11代目蔵元である代表・薄井一樹氏を中心に日本酒業界のタブーに挑み続けている。
元ソムリエである薄井氏が手掛ける“甘酸っぱい酒”は、これまでの日本酒業界では非常識に映ったのだろう。まだ端麗辛口が主流だった時代。「甘口」はおろか、「酸味」というのは酒造りに受け入れられていなかった世界観だ。
そこには元ソムリエ出身という薄井氏ならではのルーツがある。
現代の日本の料理シーンでは和食に限らず様々が料理が並ぶ。肉、中華、イタリアン、etc
そのシーンに調和し、美味しいだけではなくインパクトを残す味。その鍵が「酸味」であった。
薄井氏が考える酒造りは、どんな酒を、どんな方法で造るかの“理念”や“設計図”が大事だと話す。その思考はまさに蔵人というよりも、デザイナーに近いのかもしれない。
そんな薄井氏だが、順風満帆で酒造りに取り組んできたわけではない。高校卒業後、大学を中退し、ソムリエスクールに入学。日本酒業界において杜氏の約7割の蔵人は東京農業大学の醸造学科に入学するという中で、薄井氏のキャリアは異色だ。実家に戻り経営に携わると、経営状態は最悪という事実を知る。そんな逆境の中で生み出した味が「甘酸っぱい味」だ。しかし、変革者のスタートはいつも批判が集まりやすい。業界の慣習とは真逆の取り組みは、既存のプレイヤーにとっては時に否定されたとも感じる部分もあるのだろうか。それが伝統的な業界であればなおさらだ。薄井氏が当時、先代から「こんな酒は売れるはずない」と言われたことも理解はできる。
そんな声をよそに、世の中が先に薄井氏のお酒を評価することになる。薄井氏の「甘酸っぱい味」は20−40代の女性からの指示を得て、古臭い日本酒のイメージをお洒落なお酒としての認知を獲得する役割を担った。
ソムリエ出身の薄井氏にとって、ワインと料理のペアリングが常に前提にある中で、日本酒造りも料理との調和は必須条件だった。現代では、純和食だけのコースはじめ日常で全て和食しか食べないという方はかなり限られているだろう。洋食や中華、スペイン料理やアジアン料理など。そういうシーンにおいて日本酒をペアリングさせるには、酸味が絶対に必要だと薄井氏は語る。
今回、SAKENOMAをリリースするにあたって、最初に構想を相談した酒蔵は実は「仙禽」の薄井氏であった。日本酒業界において高いお酒が売れないとまだまだ考えられている中で、プレミアム日本酒に特化したSAKENOMAは蔵人にどのように映るのか。薄井氏の反応は非常にポジティブなものだった。その背景には自分自身が業界のタブーを打ち破り、新しい道筋を創ってきたからこそ分かる未来があるのかもしれない。
酒蔵と酒屋は一蓮托生の関係である。薄井氏とSAKENOMAの描く未来が現実で重なる日はそう遠くない未来かもしれない。